ノンターゲティングオミクスによる食品・健康・医療分野におけるにおいの網羅的解析とその応用
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テーマ
その他
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研究機関名
帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科
東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻国際情報農学研究室 -
代表者
前田 竜郎
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本研究の主旨
オミクスには、ゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、リピドミクス、フードオミクスなどがある。その対象は多岐にわたっており、動植物、食品、環境を構成しているさまざまな分子・化合物を網羅的に解析する手法である。またこれらの分析から得られるビックデータの解析には多変量解析をはじめとした先端的なインフォマティクスが必要である。 共同研究チームでは、ノンターゲティングオミクスでも揮発性成分(m/z=35~800)をターゲットに図1に示す、食品・健康・医療分野におけるにおいの網羅的解析を行っている。分析装置は従来技術のGC-MS(シングルディメンジョン:1次元展開)では揮発性成分の十分な分離が困難であり、分析試料が本来有している揮発性成分の一部しか検出できない。そこでノンターゲティングオミクスでは、マルチディメンジョン(多次元展開)によるにおいの2次元分離により本来困難であったにおいの網羅的解析を可能とした。 食品分野では、原材料(蕎麦、蜂蜜、穀物ミルク)、和食(炊飯米、伝統的調味料、だし)、製品(パン)などのにおいの網羅的解析を進めている。また、食品の調理過程や製造工程において風味が逐次変化するが、その風味の品質特性の変化を把握することも可能である。健康分野では、屋外環境や室内環境におけるにおいを対象とする。病院や高齢者施設などにおける居住空間も今後の高齢化社会を考えた場合、非常に重要なテーマと考えている。現状複合臭などが課題となっているが、においを中心にさまざまなアプローチ、課題解決が必要である。医療分野における伝統医学の診察法の聞診では、声の調子、呼吸音、体臭、口臭などを嗅いで診断する。古くから病気や体調により体臭が変化することは知られている。ノンターゲティングオミクスが対象としているのは、ヒト関連のバイオマーカーとして呼気ガス、皮膚ガス、血漿 VOC、尿 VOC などのオミクスである。ガス成分は非侵襲的なバイオマーカーであることが特徴でもある。さまざまな疾病患者と健常人との比較検討により候補となるバイオマーカーを探索することが目的である。また、そのにおい化合物と揮発性成分もヒト生体における代謝系の産物であることから、その疾病の代謝経路のメカニズムを考える上でも重要である。 このようにノンターゲティングオミクスによるにおいの網羅的解析は、今後、健康な食生活を支援し、QOL(生活の質)を向上させることが期待され、社会で大きな付加価値を生み出す可能性を秘めていると考えている。